地歌。三下り謡い物。手事物。藤尾勾当作曲。「虫づくし」「松虫」ともいわれます。虫の音が満ちる秋の夜半に、亡き人を慕い、その悲しみを歌っています。前半は俗謡より、後半には謡曲「松虫」の詞章を借りてきています。詩や手事の中には、虫の音を思わせる擬音「チンチロリン(松虫)」「リンリンリンリン(鈴虫)」「きりはったりちょう(機織り=キリギリス)」などが入っています。

虫の音【Mushi no Ne】・・独奏 瀬端淑子

【歌詞】

 思ひにや、焦れてすだく蟲の声々さ夜更けて、 いとど淋しき野菊にひとり、道は白菊たどりて此処に、[合]

誰をまつ蟲亡き面影を、慕ふ心の穂にあらはれて、 萩よ薄よ寝乱れ髪の、解けてこぼるる涙の露の、[合] かかる思ひをいつさて忘りよ、[合]

兎角輪廻の拙きこの身、晴るる間もなき胸の闇、[合]

雨の 降る夜も降らぬ夜も、通ひ車の夜母に来れど、[合] 逢ふて戻れば一夜が千夜、[合] それそれ、それじやまことに、[合]

ほんに浮世がままらなば、何を怨みんよしなし言よ、[合]

桔梗、刈萱、女郎花。 我も恋路に名は立ちながら、一人まろ寝の長き夜を、[合] [手事] 面白や、千草にすだく蟲の音の、 機織る音のきりはたりてふ、 きりはたりてふ、つづれさせてふ、きりぎりす、 ひぐらし、いろいろの色音の中に、 分きて我が忍ぶ松蟲の声、りんりんりんりんとして、 夜の声めいめいたり。[合]

すはや難波の鐘も明け方の、朝間にも成りぬべし、 さらばや友人名残の袖を、 招く尾花もほのかに見えし跡たえて、 草茫々たる阿倍野の塚に、蟲の音ばかりや残るらん、 蟲の音ばかりや残るらん。

 【その他の演奏形式】

     三重奏~ https://youtu.be/9XvHJPp-wFk

*この曲は、三曲合奏形式で演奏すると、異種の音の重なりで、虫の音や砧をうつ情景が、静かな秋の夜にせまり、人への思いがさらに深く感じられる一曲です。